銀の環
三騎士主従の話。だんだん話が大きくなりすぎて死にそうです。
朝っぱらから爆音が響いて飛び起きた。慌てて布団から飛び出て、ドアノブを捻り居間へ出る。
「まっ、マスター! すいません、交戦……いえ、仲裁のための武力行使の許可をお願いします!」
「何事!?」
「ぜってーこうなるって言いました! 言いましたぜオレは! なあホントにこっちは危害を加えるつもりはねーの、マジで槍しまって欲し待て待て待て待て待てギブギブ筋力負けする……!」
「…………」
「まあ怖い。無言だわ」
「ガチギレさせたのアンタでしょーが!」
阿鼻叫喚であった。
結局死ぬほど不機嫌そうな龍童が起きてきて、ランサーに一発拳骨を見舞っていったんは落ち着いた。現在、居間に三騎士陣営が一堂に会している、という若干意味の分からない事態になっていた。
本当に意味が分からなかった。正直ケイたちセイバー陣営がランサー陣営の本拠地に招かれていること自体が既に異常だというのに、何故この期に及んでアーチャー陣営がやってくるのか。新手の奇襲を疑ったが、どうやらそういうわけでもないらしい。現に、アーチャーは敵意は無いとでも言うように外套は捨てて武具も外している。顔が疲れ果てており、言動の端々からやけっぱちな感じがにじみ出ているのは気のせいでは無いだろう。大変そうだなぁ、と思うことにした。
座っているランサーは殺気がにじみ出ているし、龍童は胃痛をこらえるように腹をひたすらにさすっている。シルバーリングというらしいアーチャーのマスターはひたすら楽しそうに微笑んでおり、セイバーはおろおろとケイと龍童とシルバーリングをひたすらに見比べていた。
「……お二人には話しときますね」
僅かに声を小さくしてランサーがケイ達の方を一瞬だけ視線を向けて口を開く。眉は中央に寄ったままで、視線はすぐにアーチャーとシルバーリングへ向けられていた。相当に警戒しているのだろう。
「セイバーが召喚される二日くらい前に会敵した陣営です。市街地で毒矢、公園で奇襲を食らいました。無傷でしたけど」
「そーそー、尽く弾かれるもんだから『アーチャー』の面目丸つぶれっすわ。アンタのマスターも大概意味分かんねえスペックしてますよ」
「そうすか」
今にも舌打ちが飛んできそう。ケイはそっと口を閉じた。セイバーもランサーとアーチャーを交互に見た後、助けを求めるように龍童へ目を向けていた。多分、龍童もこの事態に困り果てているのだと思うが、この場を丸く収められそうなのも龍童しかいなさそうではあった。
彼は参ったように眉間を揉んで、それからシルバーリングへ目を向けた。先ほどからずっと口を閉じている。その割にずっと龍童の方を楽しげに見つめていた。
「……それで、『半妖精』が何の用だ」
「あら、それを言うのなら、『観測者』がどうして聖杯戦争に?」
ぶわり、とランサーの殺気が膨れ上がって、セイバーが咄嗟に腰を浮かす。それをため息交じりに龍童が手でランサーを制して口を開いた。
「ランサー、いい。銀の環、聞いているのは俺だ。突然人の家に土足で踏み入るマナー違反してんだ、質問ぐらいには答えろ」
「ふふ、そう言われると、確かにそうね」
奇妙な人だ、とケイはシルバーリングを観察する。
アーチャーはまだ理解できる。弓兵らしく、奇襲を主軸に戦いませんか、と全身で訴えている。最初から最後までシルバーリングのことを正気かコイツ、と言った目でしか見ていない。
一方で、シルバーリングの表情は不気味なほどに読めなかった。ただひたすらにずっとにこにこと微笑んでいる。何が楽しいのかさえ分からなかった。ただただずっとにこにこしているだけ。
それに、と龍童の方へ目を向ける。ただでさえいつもしかめっ面だというのに、胃痛の種がやってきたせいかさらに表情が険しくなっていた。
半妖精、と彼は言った。人間では無いのだろうか、と白い髪の彼女を見る。
白い髪。緑色の目。白い肌。丸い耳。おおよそぱっと視認できる特徴は人間そのもので、とても人外のそれには見えなかった。
元々知人なのだろうかとも思ったが、それであればランサーがそういう話をしていても良さそうだとも考える。推測にはなるが、龍童はランサーに対して聖杯戦争に関する情報は隠さず伝えている。そしてそれを口止めもしていない。
「ただの、好奇心、よ。聖杯なんかより、こっちの方が楽しそうだったの」
ころころと鈴を転がすような無垢さをもってシルバーリングは笑う。無邪気な子供のようだった。そこに悪意は無く、ただ本心から出たであろう言葉だけがある。
「……アーチャー」
「残念ながら、マジなんだなこれが。オレも止めたんですよ? 一回やり合った上に、それなりに遺恨も残るようなやり方したんだ。今更同盟とかよっぽどが無けりゃ組めないですぜってな」
「自覚はあるんすね。それじゃあ落とし前として腕一本もらっていいですか」
「それは困るわ。弓を使うには、腕が二本必要だもの。三本あればよかったのだけれど」
「……大変そうだぁ」
「そう、ですね……」
心底残念そうな顔をしている。流石のランサーもドン引きしていた。アーチャーはもう全てを諦めた顔をしている。どうにでもなれ、と言った様子だ。なんかもう哀れにしか見えない。
「腕三本あったらそれはなんかもう別モノだろうが。いっぺん人間の常識入れ直してこい」
「あら、なら貴方も人間の寿命で終わればいいのではないかしら」
ピシリ、と空気が明確に固まった。龍童の表情が怖くて見れない。理由は分からないし、シルバーリングの言葉の意味もはかることは出来ない。だから当然秤にだってのせられない。のせられない、が。
「ランサー、殺せ」
「うす、了解です」
龍童の冷え切った声と、無機質なランサーの声で我に返る。
「せっ、セイバー! 止めて!」
「はい! お任せを!」
「バッ、何でそこで挑発すんだよアンタは!」
「挑発したかしら、私」
火に油を注がないで欲しい。咄嗟に龍童の肩を掴めば、今にも殺されそうな目を向けられる。非常に怖い。怖いが、今争うことは重たくないのだ。言わなければならない。既にランサーは槍を握っており、セイバーが牽制している。アーチャーは解除していた武装を装着し直しており、まさしく一触即発と言った様相だった
「龍童さん!」
「あ?」
「いっ……今暴れたら、ここ間違いなく木っ端微塵です!」
鼎邸は見事にそうなったのだ。サーヴァント三騎が暴れれば、間違いなくここもそうなるだろう。そしてそれは龍童が避けたいことの一つに他ならなかったはずだ。
アーチャー陣営は交戦の意思はない。ランサー陣営も基本的に他の陣営を敗退させる目的は無い。シルバーリングの意図はさておくとして、こちらに明確に害意はないはずだ、と必死に龍童を見据える。
一瞬の沈黙。次いでため息。じわじわと胃が削れていくような感覚を覚えながら、祈るような気持ちで再度口を開こうとして、いい、と止められた。
「いいんです、大将。殺れっていうなら殺るんですけど。今すぐに」
「いい。アレに悪意は無いんだよ。憎たらしい話ではあるんだが」
「はあ、本気で言ってます?」
「根本的に感覚が違うんだよ。中途半端に人間の理性があるからややこしいだけだ」
アーチャーが死にそうな顔をしながら龍童の言葉に頷いていた。何だろう、本当に苦労しているらしい。ランサーが困惑八割、殺意二割でアーチャーとシルバーリングを見比べて、マスターがそう言うなら、とやっと槍を収めた。それでも腰の刀には手がかかったままである。ランサーの最大限の譲歩なのだろう。
シルバーリングはやはり不思議そうな表情を浮かべたまま、にこにこと微笑みを浮かべている。
「妖精……ですか」
「セイバー、知ってるんだ?」
「あ、いえ! わたしも詳しいわけでは無いのですが……ええと、妖精というのは貴女のように実体を伴っているものではなかったと思うのです。妖精を見る目が魔眼であると定義されるように、本来妖精と呼ばれるものは常人の目では捉えることさえできない……はず、です」
だんだんと自信が無くなってしまったらしく、後半は尻すぼみになってしまったが、龍童やシルバーリングからの訂正は無い。セイバーの認識は正しいのだろう。龍童は、お前が説明しろと言わんばかりにシルバーリングをにらみつけている。矛を収める判断はしたものの、やはり気に食わないことに変わりは無いらしかった。
「そう、ね……ううーん、説明が難しいわ。あら? そういえば、私と貴方、会ったことがあったのかしら?」
みしり、と龍童が拳を強く握りしめすぎたとおぼしき音を拾う。ランサーが腰を上げて、アーチャーが顔を覆った。
すごい、恐ろしい速度で話が脱線する。ケイにはもはや理解不能な行動原理であった。全ての物事に対して重さを決めて判断するケイと、その場その場の興味をすぐに口に出してしまうシルバーリングの行動原理はほぼ対極に近い。
「大昔に一度だけな。今はどうでもいい」
「そう? 確かにそうだわ。ええと、そう、妖精の話、だったかしら?」
ゆらり、と緑色の目が揺れる。そこに、気まずそうな色が浮かんでいたような気がして首をかしげた。
不可解だ。理解不能だ。そう思うのなら、何故そう動くのだろう。シルバーリングの言葉を待ちながら、ケイはただ疑問を胸の内にしまい込んだ。全ての人間が己と同じ行動原理を持つ、などという勘違いはしていない。だから、ここには興味だけがあった。
「そうね、セイバーさんの言うことは、正しいわ。妖精って本当はそういうもの。でも、わたし、肉の殻を得てしまったから、生きたいように生きているだけなのよ」
「肉の、殻?」
にこり、とシルバーリングが笑みを浮かべる。それを、アーチャーがため息交じりで補足した。本来は妖精なんてものは目に見えるわけないんですよ、と呆れるような声で。
「詳細は面倒なんで省きますけどね。妖精ってのは本来は人間世界とは別の世界に生きてる幻想種で、なんかの間違いで人間世界に出てきた挙げ句、誰でも認識可能な器を手に入れちまったのがうちのマスターってわけ」
「それで不適合起こして乱闘沙汰になりかけたってことですか。世話無いですね。とっとと星の内海に帰った方がいいんじゃないですか」
龍童がランサーの脇腹を肘で小突いている。ランサーは表情を変えずに舌打ちだけ鳴らした。相当頭にきているらしいのは分かる。余程腹に据えかねることを言われたのか、されたのかがあったのだろう。いずれも、ケイ達には知る由もないことだった。
「まあ、確かにそうだわ。でも私、そこにはもう帰れないの。実像が幻想の世界に帰る、なんて、おかしな話でしょう?」
両の手を胸の前で合わせて、まるで次の旅行の計画を立てるような軽やかさで、銀の環はそんなことを言った。
それはどういう、と問おうとして、それを遮るようにアーチャーがおしまいおしまいと声を上げた。
痩躯の男は何を考えているのかは見えない目でただこちらを見据えている。これ以上は不要だろう、と言外に伝えているようにも思えた。確かにそうだ。シルバーリングとケイ達の間隔の相違についてはこれだけで説明がつく。
人間では無いから。これだけ。それ以上の説明は確かに必要ない。
天秤に乗せる。重さを量る。確かに、これ以上の詮索は必要ない。必要なときに、また探ればいい、と結論づけた。
セイバーの方を見て、小さく頷いてみせる。意図をくみ取ってくれたのか、そのままセイバーも口を開くことは無かった。
「それで、改めて聞くが何の用だ銀の環。ぶっちゃけランサーの行為も納得の奇行だぞ」
「えっ、なら何で俺拳骨くらったんです」
「要らん爆音でたたき起こされて不機嫌だったから。 ……すまん」
「……まあ、いいすけど」
よくはなさそうな顔をしていた。明らかに不満がにじみ出ている。何なら龍童も若干気まずそうであった。いいのかよ、とアーチャーが思わずこぼしていて、つり上がりそうになる口角を必死に抑えつける。
「家財をなりふり構わず破壊したからだとばっかり……」
セイバーの呟きがとどめで吹き出しそうになり、咄嗟にうつむいた。本当にやめて頂きたい。確かに周辺には破壊された家具が散在している。とりあえず座れる程度に片付けされてはいるが、無惨に散った木製の家具が哀れなほどに隅っこに追いやられていた。
「私、ね。バーサーカーのマスターに聞いたのよ。セイバーさんたちと、ランサーさんたちが、同じ場所で暮らしてるって」
「あのクソメイガス……」
いい加減龍童の胃に穴が空きそうだ。彼は、何というか、魔術師にしては一般人過ぎるのだろう。当たり前の道徳観と倫理観を保っている。だからこの手の神秘世界特有の価値観に振り回されている。少なくともケイにはそのように見えた。
「だから、私たちもお邪魔したいな、って思ったの」
一瞬の沈黙と、派手なため息二つ分。刺すような殺気がシルバーリングへ明確へ向けられている。控え目に表現しても地獄の空間であった。正直今すぐ散策に出かけたい気分である。
「如何なる理由で」
「そう、ね」
龍童の声は固い。セイバーが踵を上げている。ランサーは変わらず獲物に手をかけている。アーチャーも武装はそのままだ。
「『私』の終わりを、知るために」
環を名に含む女は、ただ静かにそう答えた。
*
心が芽生えたときには一人だった。己が何であるかは理解していた。記憶にあるのは、白。見渡す限りの白。あるいは銀。金属のような冷たさがあって、雪のような柔らかな色だった。
人の世界を歩いて、歩いて、確かに何度か何かと話したような気がする。その全てがおぼろげで曖昧だった。ずれたピントをゆっくりと直すように歩く。誰かに手を引かれるまでも無く、終わりを探すように歩いていた。
人が死ぬ様を見た。生き物が死ぬ様を見た。己に肉の殻があることを知った。そうして、父母と呼ばれたものが死に絶えたとき、己は人では無いのだとようやく知った。
「ずいぶんと怖がらせていたの」
緑衣のサーヴァントにそんなことを言う。
「だから、私、私ね」
銀の環に願いらしい願いは無い。ただ、終わるまでの道筋が欲しいだけ。いずれ朽ちる肉の殻は愛おしく手放しがたいものではあるが、いずれ終わることには違いない。有機物である以上、必ず限界があって、腐り落ちる。
「ヒトのことを、知りたいわ」
さいですか、と緑衣のサーヴァントはあきれ果てたように頷いた。それがアンタの望みならば従いますけどね、と含んだような言い回しをする。
「だがまあ、悪くはないんだろうさ。人でなしが人を知りたいってのは、何とも皮肉な話だとは思いますがね」
呆れはされたが、ついぞそのサーヴァントは彼女の願いを笑うことは無く。そうして契約は結ばれた。
*
要約すれば、私も混ぜてちょうだい、がシルバーリングの要件であった。龍童は一蹴した。それはそうである。
「正気か? これがどういう儀式か分かって言ってんのかお前」
ランサーの目が一瞬ケイ達に向いて、そうだね、と頷いた。この状況が既に異常である、と再三口にされた。それは良く理解している。
「うーん、残念だわ。それなら、遊びに来るのはいいかしら」
引けばいいものを、シルバーリングも食い下がる。お嬢際が悪い、という感じでは無い。どちらかと言えば、子供のような無邪気さがある。コレが駄目というのであればこれはどう、と試すような。
アーチャーは何も言わない。呆れたような表情をずっと浮かべてこそいるが、そもそもシルバーリングの行動については反対していないらしかった。そうで無ければ、無理矢理にでもここに来ることを止めただろう。
そうしなかったのは、曲がりなりにもマスターの意思を尊重しているからだ。
「二度と、来るな」
硬い声が返る。目にはぞっとするほどに色が無い。ランサーが無言で槍を握る。どうして、と開き駆けたであろうシルバーリングをアーチャーがやっと遮った。
「悪いな、ランサーのマスター。正直問答無用で殺されなかっただけで破格の温情だ。 ――その温情に免じて、この場ではオレも何もしませんよ」
「そうしてください。マスターが止めてるから俺も槍を向けてないだけなんで」
シルバーリングはここでやっと困惑の表情を浮かべて、困ったようにケイの方を見てきた。こちらを縋るように見られても困るのだが、確かにほぼ冷戦のようになっている龍童とシルバーリング以外の第三者はケイとセイバーしかいない。
とはいえこちらも龍童に世話になっている身の上であるし、龍童には恩も受けてしまっている。どちらを優先するべきか、と問われたら迷い無くランサー陣営に与するべきだと言えるだろう。
だから何も言わない。そもそも、彼女のことが推し量れない。
アーチャーに半ば無理矢理退室させられているシルバーリングを見送りながら、そろりと龍童の方を窺った。彼は疲れ切ったような顔をして、寝直してくる、と席を立つ。後を追うようにランサーも立ち上がって、それから思い出したようにケイの方へ目を向けた。
「アーチャーと銀の環、まだ外にいると思いますよ。どうするかはそちらの勝手なんで」
と、そんなことを言い残して消えていった。
セイバーの方を見る。翻弄されるばかりだったな、と思い出しながら、ケイも立ち上がる。
「アーチャーを追いますか?」
「……うん。まあ、害意は多分、無いんだろうし」
「分かりました。わたしも、なんて言うか……彼女は少し、気になるので」
セイバーの言葉に頷いて、それからそうっと龍童の家を出る。道路には彼らの姿は無い。ランサーはまだいると思う、とは言っていたが、それは恐らくマスターが魔術師として索敵すれば、の意味だろう。
セイバーは無言で首を振っている。サーヴァントでも知覚できないとなると、ケイではとてもじゃないが難しいだろう。
「セイバーはさ、あの人の何が気になったの?」
とはいえすぐに戻るのも何となく気まずかったので、雑談のようにそんな話を振った。武装を解いて、現代人らしい私服に着替えた彼女は、そうですね、と口を開く。
雲一つ無い空だった。突き抜けるような青色は、しかし乱立する電柱や建物のせいでどことなく窮屈そうに見える。
「彼女が、というよりは、レイと彼女が、と言った方が正しいのかもしれません。彼は……シルバーリングという人を、嫌っているようには見えませんでした。それでも、内側に入るのは強く拒んでいるように見えて」
矛盾しているように見えるのだろう。それは確かに、と頷いた。
実際、ランサーを明確に止めたのは彼だ。それでいて、明確に彼女に殺意も向けていた。拒んでもいた。その上で嫌っているかというとそうでは無いように見えた。その矛盾がどうにもはかれない、とケイは前を向く。
見慣れない景色だった。長らく地下室暮らしだったケイは、生まれ育った街であるはずのここでさえ何も知らない。
「あの人、多分本当に秤が違うだけなんだと思う。その秤があんまりにも相容れないから、だから龍童さんは受け入れがたい、のかも?」
「秤、ですか?」
「そう、秤。何でもいいんだ。何かを決めるとき、何かをするとき、沢山選択肢があって、その中から実際にとる行動を決めるだろ。それを決める秤」
シルバーリングはその秤があまりにも常人とかけ離れているのだろう、とケイは推測する。理解など出来るはずも無い。そしてその秤が他人にとって度し難いものであれば、その時人は決裂するのだろう。
「それも、あるのかもしれないですね。ただ、わたしは……」
そこまで口にして、セイバーは力なく首を振った。すいません、うまく言葉に出来なくて。と、そういったことを言っていた。
「まあ、俺たちも別にあの人達とめちゃくちゃ仲いいわけじゃ無いもんな」
「む、それはそうなのですが」
いずれにせよ、知る必要があるならきっといずれ知ることだろう。考えた、と言うことにもある程度の意味があるはずだった。ランサーが促したのはそういうことだろう。
「もうちょっと街見て回ってから帰ろっか」
「そうですね。白昼堂々しでかすマスターがいるかもしれませんし。それに、レイとメアリーが『マスター権の簒奪を狙う魔術師が来るかもしれない』とも言っていましたし。目を光らせるに越したことはありませんね」
そういえば確かにそんなことを言っていた。それであればどちらかと言えばマスターであるケイは引きこもっていた方がいいような気がしないでも無いが、今更だろう。
それじゃあ適当に歩こうか、と駅の方をめがけて歩く。なんだか普通の子供のようだ、とふと思った。


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