ツバサ&タスク実装記念
たくさんのものを見送ってきた。
友を見送り、妻を見送り、同僚を見送り、そして、今、親友を見送った。己が結んできた縁が、一つ一つ解けて消えていく。その行く先が地獄で無いのならばそれでいいと願う。
「ドクター」
幼い声がふと落っこちて、タスクははっとして彼に目を向けた。
IKAROS‐666:Codename‐Tsubasa――通称ツバサと呼ばれる人工生命体の少年が、ただ無機質な目で骨になったそれを眺めていた。
訃報が入ったのは思わず目を細めてしまいそうなほどに眩しい晴天の日であった。その日、タスクはいつも通り眼鏡をかけて、ネクタイを締め、居住区を出て自分のデスクに向かっている最中だった。
ばたばたと騒がしい足音がして、小走りはともかく全力疾走はいけないだろうと注意するべく口を開いたが、それは真っ青な顔の同僚の言葉に打ち消されてしまった。
「――さんが、亡くなったって、聞きましたが」
「……は?」
「今朝、彼の部屋から異臭がすると騒ぎがあって、中を見たら、その……あっ、タスクさん!?」
「すまない、ありがとう!」
ぎりぎりで礼を言って、端末だけをズボンのポケットにねじ込むと、タスクは慌てて来た道を引き返した。
その『彼』とタスクは長年の親友だった。年も同じで、長く助け合って働いてきた。彼は才ある人間で、人工生命体の開発者として活躍していた。ずっと見てきて、応援していたのだから知っている。
――ああ、ああ、畜生、畜生、ちくしょう……!
――ころされた、おれの娘が、息子が、妻が、全部全部全部全部!
――憎い、憎い! どうしてあの子だった! どうして、何故……!
そんな慟哭も、よく覚えている。今でも。
随分と衰えた体力は早々に尽きて、顎が上がって呼吸が苦しい。それでも足を急がずにはいられなかった。ほどなくすると、居住区の一角が嫌に騒がしく異様な雰囲気に包まれているのが分かった。
死んだらしい、溶けて、酷い、自殺か、と言った断片的な言葉だけが聞き取れた。どうやら相当むごたらしい死に方をしたらしい。聞き取れた内容から察するに、死体の損壊が激しく、とても自殺とは思えないような死に方をしていたそうだ。
ああ、でも、とタスクは目を伏せた。彼ならばやるだろう。無情な確信だけが胸中に影を落とした。
彼は善良な人間で、多少変わり者ではあったが、それでもタスクにとっては良い友人だった。責任感が強く、やや理想主義的で、そしてユーモアがあって、家族を何より愛していた。だから、あの時、彼が一番責めたのは他の誰でも亡い彼自身だったのだ。
憎いという言葉も、どうしてという言葉も、何故という言葉も、全て己に向けられたものだ。聖者を恨めれば良かっただろうに、彼はそうすることが出来なかった。己のせいだと責め続けて、そうして聖者に対抗する兵器の開発を行っていたはずだ。
その彼が自殺した、ということは。
――兵器が完成して、生きる理由を失ったと言うことだろう。
彼の家族はいずれも翔で、優秀な身体能力を有したが故に危険と隣り合わせの部署に所属していた。酷い死に方だったらしい。返ってきたのは、髪の毛と、手のひらに収まる肉片だけ。
「あの……」
はっとして振り返る。振り返った先の視界には誰もおらず、誰が話しかけたのかと見渡そうとすれば、ここです、とはきはきした幼い声が下から飛んだ。
「あの、こんにちは!」
「あ、ああ。こんにちは」
幼い少年の姿をした人工生命体だ、とすぐに分かった。彼の姿はタスクも知っていたからだ。だから同時に酷く驚いてしまって、表情を全力で殺した。
「えっと、ツバサは、ツバサ、といいます。あの、ドクターに会いに来たのですが、ドクターはどこにいますか?」
一瞬だけ喧噪が遠のいた。意味をなさない噂話だけが耳元をかすめては消えていく。空色の髪と星の色を称えた目を不安げにタスクに向けて、未だ幼い人工生命体は答えを待っている。
――兵器を、兵器を作る。確か、幼い子供の姿で聖者を引きつける運用を行っている陽炎がいたはずだ。仮に聖者が攻撃対象に優先度を浸けるのならば、子供の姿の方が撃破しやすいとして狙われるだろう。だから、子供の姿で武力を持たせて……
――こども。
――ああ、こども、こども、なのか……
「彼は……」
言葉に詰まる。なんと言えば良いのか分からない。どう話せば良いのかも分からない。長く重ねた年月は、こんな時に限って役立たなかった。
彼の憎悪はどこまでも己に向いていた。彼はどこまでも善良な人間だった。タスクと違って。
だから、子供の姿をしたこの子に、身勝手な敵意も憎悪も植え付けられなかったのだろう。不安を映し出したその顔は、あまりにも無垢で、幼かった。
「ドクターは、もういないのですか? ツバサは、どこへ行けばいいでしょうか」
――あの子達はもうどこにもいない。なら、俺はどこへ帰ればいいっていうんだ。
本当に。
泣けるほどによく似ている。


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