月と二葉と銀の匙

銀の匙は毒見用。


 よいせ、と軽い声が聞こえて顔を上げた。なるべく音を立てないように気を遣っているのか、いつもより足音はやや静かで、力を入れるためのかけ声もちょっとだけ小さい。
「……あ、邪魔した?」
 やば、と顔に浮かんでいて小さく笑む。ルナが自室にいる時はほとんどは個人的な考え事で、本業に関わるわけでも無く、かといって思考を中断されて困るようなそれを考えているわけでも無い。気を遣いすぎとも言えたが、そういう心は大切なものだろう。
「いいや、個人的な考え事だから気にしないで。ところで、それは何かな。例の露店での掘り出し物かい?」
 だから、別段気を遣う必要は無いと示しつつ、机の上に置かれた白いビニール袋からのぞく色とりどりの瓶を目にしながら尋ねた。持ち込んだ張本人は、いつものとこじゃないけどね、とビニール袋から瓶を取り出して、いつも抱えている鞄から筆記具を取り出してなにやら書き付け始める。ラベルか何かでも書いているのだろう。
 書き付けられた字は何とも絶妙に気の抜ける字で、別にきれいかと言われればそうでは無いし、かといって汚いかと言われればそういうわけでもない、多少癖のある字であった。
「いつもんとこのすぐ近くにある、よくわかんない露店。珍しくポイントが使えるって言うから買ってきちゃった」
「へえ、あのあたりでかい? ……匠くん、念のためだけれど、スキミングとか変なプログラム流し込まれては」
「流石に無いと思うけど……ほら、ツバサに作った小型端末、便利そうだから僕の分も作ったんだよね。アレ、決済機能しか持たせてないし、インターネットにつなげてるわけでも無いから大丈夫。多分。何よりあそこ一帯は「じいさん」の縄張りらしいから、まあめったなことは起きない……と思う」
「そうかい? それならいいんだけれど」
 しれっと決済端末を自作しているあたり、素の能力は優秀そうに見えるけれどなあ、と首をかしげること多数。まあそれなりに事情があるのだろう。ルナが抱えているように、彼もあまり人に言えないような事情を抱えていたっておかしくは無い。
 匠とルナが居住区において同じ部屋に割り当てられてからそれなりに経つ。良い具合にお互いの生活リズムが知れてきて、どこまで踏み込んで良いのか、どこから先へ踏み込んではいけないのかがうっすらと把握できた頃のお話である。
 何で同室になったのかとか、いつ頃から同じ部屋で生活するようになったのかとか、まあそのあたりはまた追々話すこととしよう。
 それよりも、ルナは前々から気になっていることがあったのだ。この『ルナ』という人工生命体は長時間の思考・活動に最適化された人工生命体で、つまりは根っからの研究者である。
 言い換えれば好奇心おばけである。
「それで、この瓶はなにかな。何かの薬品……と言うには保存方法が雑すぎるね」
「多分何かの調味料か酒だね。なんかもっと変なのもあったよ。ちょっと長い名前の缶詰とか。ちゃんとは覚えてないけどさ」
 つまりは料理に使うつもりで買ってきたのだろう。なるほど、と頷きながら、書き付けた紙を慣れた手つきで瓶に貼り付けている匠へ視線を向けて、一つ頷いた。
 葉脈と一口に言っても様々な部署があり部門があり研究室がある。その中でもルナは聖者研究部に、匠は物資開発部に所属している。当然所属している人間が違うから、コミュニティも違う。
 とはいえ、いかに人数が多いといえど同じ研究畑の人間が集まり、おおよそ同じフロアで仕事をしていけば自ずと噂といった物は出回るわけで――何が言いたいかというと、物体エックスなるものの話である。
 曰く、色が変化するだとか、異臭がするのに味はまともだとか、無臭なのにこの世の物とは思えない味がするだとか、明らか食物の見た目をしていないのになぜか健康被害は無いだとか、もう聞いているだけでめちゃくちゃな物質らしい。こうして羅列していても意味が分からないのだから、目の当たりにしたものはもっと意味が分からなかったことであろう。
 ちなみに最近聞いた話では虹色に光っていたらしい。ルナはますます物体エックスなる物に興味を惹かれていた。
 これをなんとなく同じラボの人間に話したところ泣いて止められたのだけは未だに解せていない。当たり前である。何が楽しくてクソヤバ物質に頭から突っ込もうとする人間をみすみす送り出すというのか。
「……日付?」
「うん、そう。買った日は書いておかないと危ないでしょ」
 それは確かにそうだが、何か微妙に返答がずれている。普通、ラベルと言えば中身を示す物では無いだろうか。開封日と購入日の記載はもちろん安全性の面から見ても花丸の対応ではあるだろうが、匠が書き付けたラベルはシンプルに日付しか書いていない。
 そういえば彼、昨日寝てないな?
 ルナはふとそんな事実に気がついて、昨夜一睡もしていないのにもかかわらず、仕事終わりにわざわざ露店まで足を運んで買い物をする匠の体力に素直に感心した。
 それはそれとして全く褒められた行為では無いが――
(確か、徹夜しているときだったっけ、物体エックスなる物を作る時って)
 そんな話を聞いたことがある。主に物資開発部の締め切り超過常習犯から。
 次締め切り破ったらショウのダークマターだぞ、といった脅し文句が流行っているらしいが本人は知っているのだろうか。まあ知っているのだろう、同じ部署な訳だし。
「匠くん、今日は自炊なんてどうかな」
「……へ? ああ、まあ、いいけど」
 珍しい、と言外に含ませながら匠が頷く。ただでさえ幼い顔立ちである彼が目を丸くさせて首をかしげると、なおさら幼く見えた。
 ちょっとかなり申し訳ないが、これで物体エックスなるものの錬成課程が見えるかもしれないと思うと心が躍ってしまう。物体エックスと言っても単なるメシマズではなさそうだし、一体全体何がどうしておよそ食物とは思えない食物が生成されるのだろう。
 言っては何だがそんなことは作ってる当人さえ分からないので、是非とも解明を進めて再発防止に努めて戴きたい、というのが恐らく匠の所属するラボメンバーの総意であろうが、ルナはむしろガンガン作って色々研究したい類なので何一つかみ合わない。
 世の中は存外上手くいかないものである。
 まあそんな悲しいかみ合わせの話は置いておくとして、さあやろう早くやろうと言わんばかりに狭いキッチンに誘導する。ひたすら頭上にクエスチョンマークを浮かべながらも、はあ、と流されるあたり匠も大概押しに弱かった。尚がいれば鼻で笑っていたことだろう。
「自炊かあ。えっと……何を作ろうか。適当に腹に溜まるやつ? 炒め物とか、汁物とか」
「それも良いけれど……うん、もうこの際はっきり言ってしまった方が早いな。匠くん、キミが作るって言う『物体エックス』なるものに前々から興味があって――」
「寝て良いですか?」
「うん、前々から興味があってね。是非その制作過程を見学したいのだけれど、いいかな」
「人の話聞いてもらって良いですかね」
 まあまあドシャットされたにもかかわらず話を続けるこのメンタルよ。匠は素直に感心したが、寝不足の頭は、もしやこの男人の話聞かねえな、しかなかった。おおよそ正解である。
「聞くところによると発光するだとか色が変わるだとか異臭がするのに健康被害は無いだとか、色々あるだろう? もう気になって仕方がなくてね」
「そっ……か」
「うん。それに、質量もかなり圧縮されるらしいじゃないか。仮に、その物質が調理前に保持している物質的な要素をある程度維持できているのであれば、戦線での栄養供給にかなり向いているね。ほら、百年バーみたいなもので……味がまともな物でそれが出来るのならばなおさら有用だろう? 今のところ、物体エックスはほぼランダムに生成されているようだけれど、課程と素材が分かれば結果を一意に絞れるはずだ」
「そう……ですね……」
 もうやめて欲しかった。後日、ちゃんと睡眠をとった匠はそんな愚痴をこぼすことになったとか、ならなかったとか。
 言ってしまえば匠がそんなものを生成しなければ良いだけの話ではある。

 ――で、流石に狭い部屋に備え付けられているキッチンで野郎二人入って料理というのはしんどかったので共用キッチンに来たのだが、ここで匠は思いっきり頭を抱えることになる。
 先客がいるのは、まあいい。共用キッチン自体が広い上、この居住区画の収容人数のこともあって、先客がいること自体は別に珍しくも無いのだ。くわえて、今は深夜と呼ぶには随分と早い時間帯である。夕飯を食べて、物足りない人間がここに足を運んでいてもおかしくは無い。
「あら」
「あっ! お二人ともこんばんは。軽食を作りに来られたんですか?」
 ぴょこん、と薄桃色のアホ毛が揺れて、にこにこと嬉しそうにサクラが言った。向かいに座る尚は一瞬顔をしかめたが、すぐにいつもの柔和な笑みを貼り付け直していた。彼女たちの席には空のお椀が二つ置いてあり、テーブル中央に寄せられている。インスタントか何かでスープでも作ったのだろう。
「ええっと……そんなと」
「物体エックスなるものの研究をしたくってね」
「ルナさん」
「ちょうど面白そうなものを仕入れているのを見たものだから、好奇心が抑えられなくて。今回はどんなものが作られるのか、楽しみで仕方がないよ。色が変化するなんてとても……とても興味深いね」
「ルナさん、ちょっと」
 尚はわかりやすくドン引きしていたしサクラは困惑を精一杯押し殺して微笑んでいた。もう申し分けなさすぎて胃がねじ切れそうである。
 まあ被害者面している匠が原因の九割をしめているのでこいつもこいつではある。大体寝不足で刃物やら火やらをあつかう料理をするんじゃ無い。悲しいことに、それを指摘する人間がいないままにここまで来てしまったので、もはや手遅れだろう。
「うっそでしょ、アレに興味持つ人間がいるのね」
「いや……うん……なんでだろうね……」
「今日は正気なのね」
「酷い言い様」
 でも正直分かる。
「物体エックスの……研究……?」
 そしてサクラはそんなものに対して真面目に思考を割かないで欲しい。あまりの滑稽さに虚しくなりそうだ。
 まあ既に虚しいのではあるが。
「さて、さっそくやろうか。何から用意すれば良いかな。僕は手を出さない方がいいかい?」
 向こうは向こうでにっこにこのルナがいる。もう逃げ切れなさそうで、匠は正常な思考回路というか、突っ込みやら何やらを全てドブに投げ捨てることにした。
 要するにやけくそである。
 渋々といったようにキッチン内部に入って、とりあえず持ってきた買い物を置いた。それから冷蔵庫の中から名前を書いたビニール袋をいくつか取り出す。生野菜と調味料と、料理に使う食材類をざっくり分けてまとめられていた。
 とりあえず野菜は使い切ってしまおう。生産エリアでしっかり野菜類は生産されているので、肉類よりは余程安い。腐らせるくらいなら食べた方が良いに決まっている。
 随分小さくなった葉物を取り出し、次いで痛みが早そうなものを取り出した。後ろでそわそわとしてるルナがなんとも気が抜ける。物体エックスを期待しているんだろうなあ、と悲しいものを覚えながら、食材をまな板にのせて、軽く刻む。
「……あの」
「何かな」
「手元を凝視するのはやめてもらっても良いかな」
「ええ、だってちゃんと見ていないと制作課程が見えないじゃないか」
「それは、そうなんだけど」
 じいっと見つめられると非常に作業がしにくい。気にする質ではないが、そもそもそんなに凝視される機会も無かったから、余計になんとなくやりづらかった。
 尚とサクラはといえば、テーブルに座ったまま匠とルナの謎調理を窺いながら談笑を継続していた。
「あそこまでやりづらそうに料理してるの、中々見ないわね」
「そうなんですか? でも、うん……ルナさん、すごい手元見てますもんね……」
「ふふ、子供みたいね」
「言われてみれば確かに。ちょっと微笑ましいかも」
 と、そんなのんびりした会話をしていた。
 匠は匠で何を作るか全く決めていなかったものだから、今すぐにでも手を止めたい気持ちで一杯だった。もっとも、そんなことは隣でうきうきと目を輝かせているルナが許してくれそうも無いが。
 適当に野菜を切って、さてどうしようかと首を捻る。トマトやらキャベツやらをとりあえず切ったは良いが、何を作るか何一つ決めていない。
 ううん、と唸って、とりあえずその辺に出した瓶類を物色した。
「買ったものを使うのかい? ラベルは……何も、書いていないようだけれど」
 ルナが首をかしげながら瓶の一つを持ち上げる。貼られたラベルには何が入っているかの表記は無い。瓶に何か掘られているわけでも無く、挙げ句色つきの瓶だから、余計に何が入っているか分からない。
「え? 書いてあるよ?」
「日付なら確かに書いてあるけれど……うーん、嗅いでみてもいいかい?」
「はあ、別にいいですけど」
 でも嗅ぎ方がどうあがいても化学薬品を嗅ぐときの嗅ぎ方である。冷蔵庫に薬品は、置くときもあるが共用キッチンの冷蔵庫には置かない。流石に限界葉脈だってそれぐらいの良識はあるのだ。
 ふうむ、とルナが唸って首をかしげる。
「魚介類……かな。出汁?」
「えっ、知らないですけど」
「中身が分からないもの使おうとしていたのかい?」
「うーん、まあ食べられるものなので……」
 もう既に方向性がかなり怪しくなり始めたのを見て、今回のも失敗かなあ、とサクラが苦笑する。尚は完全に吹き出すのをこらえていた。失礼にもほどがあるが、正直瓶の中身がなんなのか分かっていないのに料理にぶち込む匠が悪い。
「じゃあとりあえずこいつを炒めて」
「うんうん」
「こいつを入れて……あっ」
「『あっ』?」
「入れ過ぎちゃった……」
 なんだか前にも聞いたわねあの台詞、と尚は何とも危なっかしい調理過程をあきれ顔で眺めていた。炒められた野菜がフライパンの中でぐつぐつと煮えている。加熱された恐らく魚介系の出汁が良い匂いを出しているのが笑いを誘う。
「もしかして成功ですかね」
「かもねえ。まあ、匠が食べたら食べようかしら」
「ど、毒味……」
「ふふ、偉い人の気分、ってね」
 和やかな会話が一周回って憎い。サクラがちょこちょこ気になるようにキッチン側を見ているが、尚が良い具合に話を続けているらしかった。
 話題がどうあがいても怪しい調理過程なのだけが嫌なポイントではある。嫌なポイント、と匠は思うが、正直物体エックスを錬成している匠が十割方アレである。おおよそ錬成しようと思っても中々錬成は出来ないはずだ。
 それこそ卵液に塩と砂糖をしこたまぶち込み、墨になるまで炒めたダークマターかなにかとかぐらいだろう。
「良い匂いだねえ」
「うーん、卵入れるか」
「卵? 何個かな、溶くぐらいだったら僕がやるよ」
「えーっと、じゃあ二つ……や、やっぱ三つで」
「了解」
 冷蔵庫から卵を取り出してボウルに割る。卵白の上に卵黄が三つ浮いていた。それら一つ一つを割るように箸でつまんで卵黄をほぐしてかき混ぜいている。几帳面だなあ、と明後日の方向の思考を飛ばしながら、フライパンの中身が沸騰しないように火を弱めた。底が深いタイプのフライパンで良かったなあ、とぼんやりとかき混ぜる。
 混ぜたよ、とルナに声をかけられて、それじゃあ中に、と溶いた卵液を投入する。既に煮えていた推定出汁の中に投入された卵液は、みるみるうちに固形化していった。

 ――で、できあがったのが卵とトマトとキャベツの魚介風スープである。
「二分の一の博打に勝ったのね。おめでとー」
「やる気の無い祝いだなあ。まあ、食べられるものだからいいんだけど」
「うーん、なるほど、今回は失敗だったか……」
「成功してるんだよ」
「次料理するときは是非誘ってくれると嬉しいな」
「何も言わなくてもついてきそうよね、この男」
「……うん、とりあえず食べましょう! 冷めちゃいますよ!」
 ぱん、と手をたたく乾いた音が響いて、ほらほらとサクラが尚の背中を押している。尚は、はいはいと返事をしながら皿を出していた。枚数は四枚で、きっちり人数分だ。今回は食べるつもりらしい。
 とはいえ、と匠はできあがってしまった成果物を前に首を捻る。これを他人に振る舞うのはいかがなものか。一応消費期限内だと思われる謎液体を使用したから安全ではあるとは思うが、いや安全では無いよな、と支離滅裂な思考をして、全部とりあえずドブに捨てることにした。
 寝不足の頭で真面目な思考は無理である。仕事であれば気合いでどうにかするが、仕事終わりのプライベートな時間まで真面目に考えるなどやってられない。
「魚介系、かあ」
「ルナさん、どうかされました?」
「いや、大した話では無いのだけれど」
 ううん、と唸りながらルナは聡明そうな淡い緑色の目を謎にできあがってしまった成功作に向けている。
「いや、養殖とはいえこういった類のものが食べられる、というのは贅沢な話だと思ってね」
 かちゃん、と食器を並べながらルナが言う。サイハテ内はほぼ自給自足で、魚も貝も肉も野菜もコロニーの中で作られる。そうで無いと生きていけないからだ。広大な地上を追い出されたヒューマンというのは、存外たくましい。
「わたし、どっちかと言えば、この出汁が本当に食べて良いものかどうかが気になりますけれど、ね」
「えっ、んなこと言われても」
「買ってきた張本人が何言ってるのよ」
「ええ……や、でも、さっき飲んだけど別になんともなかったし……」
「は?」
「なんでもないでーす……」
 とんでもなくドスのきいた声だった。それと完全に尚の言い分が正しい。ひえ、とちょっとおびえた声が出たサクラが可哀想に思えたが、その原因を作ったのは誰だかは言うまでもない。
 仲がいいんだねえ、と暢気なことを言いながらルナは着々とできあがったスープをよそっていた。後から気がついたらしいサクラがキッチンからスープが注がれた食器を持ってきては並べている。
「まあ毒味は終わっているようだし、早速いただこうかな。いただきます」
「……僕が言うのも本当アレだけど、別に無理して食べなくて良いからね。食あたりって後から来るし」
「経験者は語るってところかしら」
「あ、いえ、その、匠さんはなぜかいっつも元気で……どっちかと言えば周りの人が……」
「そうそう。なんでか僕は平気なんだよね。まあ倒れたやつも味がやばすぎて倒れてるだけなんだけど」
「今のところ、食中毒って診断された人はいないですもんね」
「それはそれで恐ろしいものがあるのよね」
 本当に謎である。サクラは眉を下げて小さくごまかすように笑んでいる。もう申し訳がなさ過ぎて胃が痛い。
「でも、魚介系の出汁ってこんな長持ちするものかな」
 ふと思い出したようにルナが言う。これおいしいねえ、とほわほわと言っているがその発言は良いのか。
 思わず匠と尚とサクラが顔を見合わせて、どうかな、と首をかしげる。
「……さあ、わたし、料理はしないのよね」
「えっと、どうでしょう。お出汁をとったら基本すぐ使っちゃいますけど……でも、作り置きのお出汁作ってる方もいますよね?」
「いるね、鰹とか。固形のやつ溶かし込んで作ったヤツとかはどうなんだろ。何にせよ、極端に長持ちはしなさそう……だけど……」
「あ、やっぱり? まあ加熱してるからおおよその細菌は大丈夫だと思うよ」
「…………うん、二人の分は僕がまとめて処理します。ごめん」
 ――ちなみに、後々露店の店主を締め上げ、もとい尋ねてみたところ、瓶の中身は固形の出汁の素を溶かし込んだ液体だったらしい。ルナが言うとおり、後から確認したが別に食中毒の原因になるようなものは発見されなかった。
 それはそれとして今回の料理に関しては成功してしまったのできっちりレシピをとっておき、出汁の入手経路だけ調整してまた作り直した、というのは、また別の話である。

 ……で、寝不足の匠がキッチンに立つたびルナに共用キッチンに連れ出され、度々異臭騒ぎが起きるのも、まあ別の話である。おしまい。

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