空白とその続き – 現パロIF1

なんだこれは(なんなんだこれは)
東京聖杯解体戦争が全部終わった後に何かが色々間違ってFGO組もろとも転生したIF。私が原田×龍童を拝みたいだけの話。


 部活のチラシを抱え、ビームライフルを担ぎながら小さく息を吐いた。隣のブースであるサバゲーサークルの同期が「お前はとっとと勧誘しに行ってこいよ!」などと何故かけしかけてくる。活動内容が似ているから取られる、とのことらしい。取られるとは言うが、実際の所は龍童の所属する部の部員の方がよっぽど少数だ。
 未だ四月ではないが、事前勧誘ということで部活・サークル勧誘が許可されている。品種改良された桜は満開の時期を過ぎてはいたが、緑色の葉と交じるようにピンク色の花弁を枝にたくさんつけていた。
 まだ少し寒い、と適当に声を出しながら棟から出てくる新入生にビラを押しつける。まだ高校生か、あるいは高校卒業から一年二年ほどしか経っていない後輩達はどことなく若々しい。研究に追われて胃をすり減らしている三年生とは酷い違いだった。
「射撃部どうですかー」
「バレー部! あっそこの君、背高いね! どうかなバレー部」
「見学だけでも良いから建築部どうですか!」
 きゅっと口を閉じた。隣ででかい声を出した同期二人がばしばしと肩を叩いてきて痛い。やかましい、と振り払うと、お前んところはインパクトがつえーから、とゲラゲラと楽しそうに笑っている。
 まあそうかもしれない。明らかに一人だけ浮いている。興味本位でチラシをもらってくれる新入生も少なくなかった。
「あっちいくか……」
「お、了解ー。終わったら英語の課題見せてくんね?」
「おまっ、それ先週締め切りだろ」
「え!? そうなの!?」
「だはははは! ウケる、落単確定じゃねえの!」
「嘘だー! 嘘と言ってくれよぉ!」
 彼は駄目そうだな、と鼻で笑えば、バレー部の同期はがっくりとうなだれていた。これで今年の前期も英語に苦しまされることが確定である。というかこんな共通科目ぐらい一年の時にとっておけよ、と建築部の同期が追い打ちを入れていた。
 それじゃあ、とその場を離れて校門の方へ向かう。一棟一棟の位置が微妙に離れている上、校門までも遠いせいで、あちこちに勧誘している在校生と勧誘を受けている新入生がいた。
 そのうち、比較的人が集まっているところを選んで同じようにチラシを配る。その中に、頭一つ抜けるほど背の高い男性を見て、でかいな、と思った。派手な髪色をしているのも相まって目を引いたのかもしれない。バラバラのチラシを持たされているあたり、彼も新入生だろう。
 まあ、とビームライフルを背負い直して、チラシをその辺に居る新入生に手当たり次第に押しつけていく。そうして、背の高い彼にチラシを渡したときに、酷く驚かれた顔を向けられた。
「射撃部どうすっ……!?」
「龍童さん……!?」
 ついでに腕も捕まれて、咄嗟に振りほどく。相手は、やってしまった、とバツの悪そうな顔をしていた。
「あー……すんません、人違いでした」
「ああ、そう……?」
 チラシに手が伸ばされたのでそのまま渡す。周りはがやがやとしており、この場で起きたちょっとした騒ぎは目について居ないらしかった。そんなものだろう。
 背は己よりも頭一つ分ほど高い。赤い髪は長く伸びて、目元にかかっていた。見えづらそうだ、と龍童はチラシを抱え直す。
(人違い……の反応か?)
 未練があるかのように男は立ち去ろうとしない。それがどうにも気まずくて、龍童も適当に立ち去る理由を見つけようと目を逸らした。
「あの」
 口を開いたのは男の方が先だった。立ち去ってくれれば離れる口実になったのだが、と視線を戻す。黒い目。何を考えているのか読み取りづらい表情。顔は整っている方だろう。良く鍛えられているのか、この時期にしてはやや薄着の装いだった。
「入ります。 ……射撃部? すよね」
「え、ああ、どうも。ウチ入るの面倒だけど、マジで? 他にも見た方が良いと思うけど」
「勧誘してるのにそういうこと言って良いんですか?」
「実際面倒で入部した後に六割七割は辞めてくから……」
 はあ、と息を吐く。おかげで毎年廃部との戦いである。ゆるい部活ではあるんだけど、と付け加えながら、名簿を取り出して、ここに名前を、と促した。
 男が慣れた様子で字を連ねていく。枠一杯に大きく書かれた字が何となく意外だった。
「どうも。後で暇なときにでも体験入部に来てくれれば良いから。 ……原田くんね」
「うす。体験入部って、チラシのとこであってます?」
「合ってる。入部するんだったら後でなんかのオリエンで入部届が配られるはずだから、それを体験入部んときに持ってきてくれれば良いから」
 わかりました、と原田が頷く。それが何故か嬉しそうにしているように見えて、内心で首をかしげた。表情は相変わらずわかりにくい。端から見れば腕を掴んだときの動揺こそ分かれど、それ以上は掴めないだろう。それくらいには表情も声音も揺れていなかった。
 だというのに、何故そんな風に感じたのだろうか。周りはそれなりに見てはいると思うが、人間観察に優れているとは自認していない。せいぜい並程度だろう。
 まあいいか、とそこで思考に区切りをつけた。それじゃあ、と踵を返す。他の通り過ぎていく新入生にチラシを押しつけて、原田からは遠ざかっていく。
 その背中で、何か呟かれたような気がしたが、特にはっきりとは聞き取れなかった。

 驚いていたな、とチラシを眺めながら息を吐いた。ついでに先輩なのか、とそこにもさらに息を吐く。年齢を考えればそれはそうだ――何せ、原田の知る龍童は明らかに人間の寿命を越えて生きていた爺である。
 まあ、と勧誘の群れを通り過ぎて校門を抜ける。今も同じとは限るまい。
 最初に覚えたのは落胆。覚えていないのか、という確信。次に安堵だった。覚えていないのならば――彼は、あんな息苦しさも、諦観とも無縁で生きていられる。それは、あの時の『マスター』が喉から手が出るほどに望んだ普通の人生だ。遅れてやってきた奇跡だとでも思うことにしよう、と原田は小さく笑みを浮かべた。

 輪廻転生、という考え方がある。人間が死の恐怖から逃れるために用意された救いの概念の一つだろうか。仏教に由来するその語句と、今のこの状況とは厳密に言えば違うのだろうが、一般に連想される状況で言えば「輪廻転生して現代に生まれ落ちた」と言うのが適切だろう。
 原田左之助は――生前と、さらにその後の記憶を持ち得たままにこの世を歩いていた。何人かの知人も友人もいる。昔のことは覚えていたり覚えていなかったりとまちまちだった。
「銃は脇に挟むように構えて、腰に肘を置いて、照準は上に。そっから下にゆっくり降ろして照準を合わせて、撃つ」
 撃ちにくいな、と思った。電子標的に表示されたのは九・二点。おお、と後ろで見ていた別の先輩が声を上げた。良い方の点数なのだろうと思ったが、ビーム銃なんですから、と別の声が茶々を入れていた。こんなものらしい。
 体験入部の教室は他の部に比べて閑散としていた。龍童含む射撃部所属の大学部生が三人と、原田含む新入生が数名。時折、別の部活を覗いた帰りらしい新入生が入っては去って行った。
「結構点上がったなあ」
「ですね。ねえ君、本当に入らない? っていうか筋肉すご。元運動部?」
「ええ、まあ、一応は」
「ボディービル部?」
「いーや、これは実用筋肉だって絶対。武道系じゃない? 空手とか? 腕やばいし剣道?」
「そんなとこすかね」
 適当言ってんなぁ、と呆れたように龍童が机に腰をかけている。『昔』共闘したときとほとんど変わらない姿で、『昔』よりはずっと明るい表情で、しかしよく似た行動原理で動いていた。
 実際の所は高校では無所属だった。廃部寸前の剣道部には居たので嘘では無いが、大会にも出ていない弱小部だ。原田の現在の体格は別の武道館で得たもので――厳密に言えば、元新撰組のたむろ場で得たものだ。
「マジで入んの? 面倒だぞ」
「おいやめろって。そういうのは隠さなきゃ」
「言ってる時点でオワリでしょ。つかもう説明は最初にしてるし」
「仲いいすね」
「アットホームな部活動でーす!」
 どっ、とその場に居た新入生がウケている。龍童と入部のめんどくささをごまかそうとしていた先輩は引いていた。もう一人、茶化しに来たと公言している女の先輩はけらけらと笑った後、まあ退部も自由ですからー、と中々に無責任なことを言う。
 それから、入部した後の事務手続きについて話を聞く。変わらず、どことなくとっつきにくそうな印象を受けるが、面倒見が良いのは健在だった。一つ尋ねれば、質問を補完するように色々と教えてくれる様はまさしく『良い先輩』だ。
 もっとも、伝えたところで否定するだけだろう。ドライな風を装って、お人好しなのは相変わらずだ、と面白く思った。
(覚えてねえのは――いいんだかな。いいんだろう、この人にとっては。覚えてる方が酷だろうが)
 教室を閉める準備をするようにの放送がかかって、そこで雑談はお終いになった。新入生は挨拶をしつつ退室していく。原田もそこに続いて退室して、適当に会話しつつ教室を後にした。

 気がかりなことが一つだけある。
 明け方の空。夜の藍を染め上げる茜色。煌々と顔を覗かせた日と、からからと初めて見るような清々しい顔で豪快に笑った『マスター』の姿。
 『ランサー』は、それに安堵して、これならきっと大丈夫だ、と思って同じように声を出して笑った。
 これが最後の記憶。あの人と原田が駆け抜けた聖杯戦争の終わりの話。
「楽しかったですよ、それなりに。でも俺はここまでみたいなんで、お先に失礼します」
 貴方が死ぬときは、どうか俺のように何も感じない虚しさの中で終わらなければ良い。ここまで苦労して、辛酸をなめさせられたんだから、最期くらいは清々しく納得して終わるべきだ、と思った。
「……令さん。どうぞお達者で」
 エーテルの身体が崩壊していく中、思ったのはそんなこと。崩れゆく視界の中で、マスターは一瞬だけ名残惜しそうな顔をして、それから、やかましいや、と再び笑っていた。
 だから、まあ、心配はあまりない。あまりないのだが、やはりこうして地続きの意識を持ってしまった以上は気になるのだ。
 果たして、龍童は納得のいく最期を迎えられたのだろうか、と。

 あ、と小さく声が漏れた。教室の真ん中より少し前の席に龍童が座っていたのが見えたからだ。このまま隣に行ったらわざとらしいか、と思って、やめた。面識があるのだからそこまで不審では無いだろう。多分。
「龍童さん、こんにちは」
「え? ……ああ、原田くん」
「隣いいすか。他に知り合いもいないんで」
「もう座ってるくせによく言う」
 はは、と呆れ混じりの返答に小さく口角を上げた。共通科目の初回授業ということもあり、教室は広く人も多い。教室には新入生から龍童のような先輩も多く集まっていた。
「結局どこに入ったんだ、部活」
 ノートPCを立ち上げながら龍童がそんなことを口にした。そうですね、と答えながら、普通だな、と思った。話題を探していたかのような間と、気まずさから逃れるようにノートPCへ注がれた目を見て思う。
 前は、きっと。こんな雑談だって臆病さに負けてできなかっただろう。それぐらいに深く傷ついたまま走り続けていたのがランサーのマスターだった。だから、これは良いことなのだ。紛れもなく。
「どこにも入ってないすね。冷静になれば、金も無いんで……まあバイト漬けでしょうね」
「はは、まあいいんじゃねえの。学業に支障が出なければ」
「学業っつってもほとんど実技なんですけどね」
「実技? あ、お前体育学部か。なるほどなぁ」
 納得したように龍童の目が原田の顔から胴体へ移動する。まだ四月と言うこともあり、微妙に肌寒いのだが、原田は薄手の長袖一枚だった。代謝のせいか、これで十分なのである。なんなら半袖でも良いくらいなのだが、何かで昔の同僚と会うと何かにつけて見た目が寒いと文句を言われるため、この格好をしている。
「龍童さんはどこなんですか」
「理学部」
「へえ、頭良さそうすね」
「あからさまに雑な返事をやめろ」
「すいません」
 イメージと違うな、と思いながら、でもそれっぽいな、とも思った。
「体育学部がこの講義取るのは意外だと思ってさ。結構ダルいよ、この先生」
「あー……まあ取れれば良いんで……」
「サボりがきかねえからなぁ。テストだけ受けてお終いにしたいやつは取らないんだよ」
「そうなんですね。俺はどっちかっていうと試験の方が面倒なんで、座ってるだけでいいってことで選びました」
「それは朝起きられるヤツの台詞だな」
「……今十時ですけど」
「寝てるヤツは昼過ぎまで寝てるんだなこれが」
 あまりにも普通の会話をしながら、龍童の顔に影が無いことを見る。いつも漂っていた諦観は無い。憎悪に近しい羨望も無い。
 普通の人だった。少しドライな風を装うお人好しの、ただの人。彼が焦がれて、ついぞそうは成れなかった、普通の青年だ、と思った。
「まさか斎藤さんの気持ちが分かるとはな……」
 藤丸とマシュの姿を見るや否や斎藤に実に面倒くさい絡みをされた経緯を思い出して、ため息をついた。龍童は気になったようにこちらへ目を向けたが、すぐにパソコンへ目を落としている。
 ならば、ならば――と、原田は胸中にある心残りに封をする。大丈夫だと信じたならば信じるしかあるまい。ここにいるのはただの人である龍童ならば、そのように付き合えれば十分だ、と。
「これ終わったら昼いきませんか」
 それはそれとして、と原田は原田でノートを取り出しながら誘いをかける。どうせならばせめて友人くらいには、出来れば仲のいい友人にはなりたい、という欲望混じりでそんな誘いをした。龍童は、一瞬困惑したように目を泳がせて、いいけど、と口にする。
「あざます。ついでに食堂の使い方教えて下さい」
「オリエンで案内無かったのか?」
「寝てたんでわかんねえっすね」
「嘘だろお前……」
 そういう、あまりにも他愛の無い会話をかみしめた。

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