そして銃口をこめかみにあてて

灰寺さん宅ロザリオさんをお借りしてます。
そして記憶の欠片を握るの後日談のような何か。
だいたいドンパチしてるだけのようなそうでも無いような……


 銃という武器が昔から苦手だった。扱えないわけではなくて、単に苦手なだけ。そのうっすらとした嫌悪感は武器から己を遠ざけるのに十分すぎた。
「深いな、ここ。おまけに死角だらけだ。いくら翔とはいえ、見えも聞こえもしなければどうしようもないか」
「死人に口なし、か。今まで露見しなかったわけだ」
 暗い赤色が緑色の背景に嫌なほど映えていた。古びた金貨のような目が僅かに細められて、急な崖下を見つめている。眼下には露出した地面がある。視界からは随分と下の位置で――
 落ちればきっと、助かるわけもない。それが生身の人間であればあるほど、助かる確率は下がる。足から落ちればあるいは、と思ってから、状況を思い出して首を振った。
 数日前、パトロール中に翔を拾って撤退した。聖者に追われて撤退していたらしい。通常、翔は単独で行動することはあまりない。今回もペアでの行動だったらしいが、回収できた生存者は一名のみだった。
 ――言わなければ、探さなくて済みますから。
 翔である人間はそんなことを言った。硬く拳が握られていた。肩は震えていた。視線はこちらに向けられなかった。
 それが最善であった、という言い訳と、どうして聞いてくれなかった、という悲鳴が聞こえていたように思えた。
 聖樹近辺は基本的に安全な傾向が強い場所で、そうそう聖者に追われるという状況が発生することはない。だから、今回のようなケースは稀なのだ。この翔ペアが行動していたのもやはり灰の街よりは聖樹に近いエリアで、だからこそ油断もあったのだろう。
 静観した方の翔から得たデータを元に、聖者からの襲撃を受けたエリアを確認して、なるほど確かに視界が悪い、と眉を寄せた。
 木は想像以上に密集しており、とにかく見通しが悪い。人も獣もあまりこちらに来なかったせいか、地面も雑草が茂っていて足場があまり良くない。無駄に背が高い草が生えているせいで、どこからが崖なのかも咄嗟に視認できるかと言えば怪しかった。
 手入れのされていない山はこうなるんだ――ふと、そんな遠い声を思い出して、剣の柄に利き手を添えた。もう声色も思い出せない声を思い出しては耳を塞いでいる。酷い自傷行為だ、と嗤っていた。
「なあ、ここから飛び降りいけるか?」
 思考を遮るように、淡々とした声がそう聞いた。崖下を見下ろして、ふっと笑みを漏らしながら相方の陽炎――ロザリオに目を向けた。
「殺す気か?」
「駄目かー」
 駄目か、ではないのである。そもそも知介は「ちょっと燃費の良い陽炎」くらいのスペックであり、優れた耐久性もなければパワーも無い。誇れるところ言えば持久力くらいなものだが、それだってそもそも疲れという概念がない機械系の人工生命体の前では木っ端微塵に砕け散る長所である。
 軽く息を吐いて、口を開く。湧き上がりかけた記憶はすっかりだんまりになっていた。
「飛び降りは出来ないが降りられないとは言ってないだろ。とは言っても、このままゆっくり降りるのも――」
 くるりと銃口が回る。人差し指が流れるようにトリガーにかかり、そのまま何のためらいもなくロザリオは引き金を引いた。
 ぽしゅっ、というサイレンサーで打ち消された銃声を聞く。弾丸は知介のすぐ真横を通り過ぎ、硬い音を響かせた。
「聖者の餌食になる、か。ままならねーな。いったん周りを片したとて、こうも視界に入ると討ち漏らしがなぁ」
 光輪が欠けて、そのまま霧散した影が見えた。銃の一発で仕留められたと言うことは目玉型の聖者だろう。
 このあたりが都合の良い狩り場だと知っているのか、あるいは偶然かは知らないが、哨戒を主目的とする目玉型が多いとはそういうことなのだろう。嫌な話だ、と眉を寄せた。
 周辺を再度確認し、崖下へ目を向ける。おそらくは、ロザリオだけであれば比較的早く下へ降りられるだろうか。死体の回収を考えても、恐らく知介が降りるよりは効率的だ。
「ロザリオ、先に降りて戻ってこれるか? 時間稼ぎは俺がやる」
「……まあ、聖者を引きつけてくれるって言うなら出来る。出来るけど、マジで言ってる? 自殺志願じゃないな?」
「自殺志願者だったらとっくに野垂れ死ねただろうな。銃一丁貸してくれ」
 金色の目が僅かに曇る。そうして逡巡した後、渋々と言った様子で拳銃を渡された。手袋越しで、温度など感じやしないくせに、なぜだか、冷たいな、とだけ思った。
「あ、弾無くなっても投げるなよ」
「投げてもそんな威力はでなさそうだよな、拳銃って」
「遠距離武器を投擲する選択肢あるのマジか……」
 いや別に、必要じゃ無かったらやりませんけど、と言い訳を口にする前にロザリオはするりと崖から降りていった。

 中途半端に生えている枝や飛び出ている岩肌を伝って下へ降りる。飛び降りてから数秒して、硬い音が頭上で鳴り始めた。交戦が始まったらしい。一人になった機を逃さない当たり、まだ目玉型がいたのだろう。気がつかなかったことに苛立ちを覚えながら、早く戻れば良いだけだ、と棺を降ろす。
 まだ原型のある死体だった。それはそうだろう。亡くなってからそこまで時間は経っていないはずだった。死んだ翔の表情はなぜだか安らかだった。
(諦め……いや、安心と安堵……)
 死体を引き上げる。死後数日は経過したそれはそれなりに重たい。臓腑はとっくに腐り落ちているだろう。崖下が比較的涼しかったため、想定よりも腐敗が進んでいなかったのだけが不幸中の幸いだった。少なくとも、人相が分かる程度には原形をとどめている。
 二人一組の翔が、片方を生かすために片方を犠牲にした。結果だけ見ればそうだ。死体を見る。穏やかな顔を、見る。
 生きたくは無かったのだろうか。死にたかったのだろうか。恐らくは、死にたくは無かったはずだ。そうで無ければ戦闘の痕跡がここに残っているわけが無かった。勝てないと分かっていてなおあがいたのだろう。
 あるいは、もう一人が確実に生き残るために玉砕前提でナイフを握ったのかもしれなかった。ひび割れた遺品も棺にしまう。
 棺に死体を格納し、他に遺品が無いことを確認した上で蓋を閉める。金具で蓋と器を固定し、空かないことを確認したら棺を背負って今度は崖を登った。
 死、という記憶を抱えている。そのくせ、感情だけは沈黙を保ったままだ。だから、どうにも曖昧で、あやふやで、地に足がつかないような、そういう不安定さを覚えている。帰りたいという嘆きも、死にたくないという懇願も、確かに知っているし理解できる。ただ、実感だけが無い。まるで映画を眺めているようだ、と思う。
 多くの死に際を見てきた。死んだ後を見てきた。それだけ。それだけで、一体何を掬っているのだろう。
 甲高い金属音が断続的に響いている。今のところ発砲した音は聞こえていない。ロザリオが知介に渡した銃はサイレンサーを外した方の銃だった。銃声がそのまま響いた方が戦況の把握がしやすいからだ。今のところ、まだ銃を握る必要には駆られていないらしい。単に銃を握る余裕が無いだけかもしれないが。
 いずれにせよ、早いところ戻った方が良さそうだと手をかけて、離す。離した手をそのまま腰に。さした拳銃を抜き、そのまま自由落下する身体をそのままに銃口を向けて引き金を引く。パン、とはじけるような銃声が響いた。もう片手で短剣を抜き、崖に突き刺し減速を測る。目視で確認できる天使型の数は一つのみ。硬い金属音は継続しているまま。そうこうしているうちに、パァン、と酷く大きな銃声が響いた。知介が撃った物だろう。
(チッ、分が悪い――!)
 天使型の周囲の景色が歪む。水だ、と気がつくや否やナイフから手を離し崖を思い切り蹴りつける。一度棺を真横に放り投げ、そのまま形成された水の刃から交わすように飛び降りて、駆ける。棺をそのまま抱き留め背負い直して銃口を向けたが、本当に分が悪い、と眉間にしわを寄せた。
 近接戦闘が全く出来ないわけでは無いが、元来ロザリオは遠距離型の陽炎である。本来であれば、近接戦闘で攪乱してくれる味方がいて初めて真価を発揮する。そういう風に作られている。
 どうする、と引き金に指をかける。何かを探るようなにらみ合いが続いた後、不意に影が落ちて反射で引き金を引いた。
「あはっ、いい反射神経じゃーん」
「ラウピティアてめぇ先行するなってあれほど!」
「うるさーい! どーせあたしが降りて知介が引きつけ役でしょ。なら一緒じゃん」
「んなわけ、ある、かっ!」
 豪速で目玉型がこっちに落ちてきて地面にめり込んだ。崖上で戦っている知介がはたき落とした物だろう。
「……援軍で合ってるよな?」
「そうでーす。陽炎のラウピティア。こっちはあたしが叩き潰すから小魚ちゃんは早く登ってくれる?」
 そんなことを言いながら、ラウピティアと名乗った女性は大ぶりの槍を軽々と振り回して天使型の形成した刃をはじいた。肉食獣さながらの歯を覗かせて笑う姿は味方であるが一種の恐怖を覚えさせるのものか――と、ロザリオは記憶から得られる情報を頼りにそんなことを思う。
 長い髪を振り回して、槍を鈍器かの如く振り下ろす。知介の戦闘音とは違う、重たい打撃音を背に走る。
「ロザリオ、だ。援軍助かる。礼はまた後で」
「お礼してくれんの? なら昼か何かおごって、よっ!」
「やめといた方が、良いと思うけどな……っと!」
「知介うるさーい!」
 ゴッ、とひときわ重たい音が響いて思わず目を向ける。長身の女がにこにこと笑みを浮かべながら蹴りを放った姿が見えた。
 槍要らなく無いか? ロザリオは次の突起に手をかけながらそんなことを思った。

 分が悪い、と知介は剣を振るいながら舌打ちをならした。天使型が二、蟲型が二、目玉型が三。目玉はともかく、一人で天使型と蟲型を同時に相手取るのは難しい。遠距離型であればあるいは――と思ってから、そうでも無いなと首を振った。なんやかんやきついのである。特に知介のような一般陽炎は。
 ゆるりと天使型が揺れた。蟲型は牽制するようにぶんぶんと羽音を立てて飛び回っている。蟲というよりは蜂に近いな、ともう片方の天使型に目を向けて――利き足で踏み込んだ。
 ぐるりと大気が揺れる。風が起きる。風刃が産まれる予兆だと判じながら、それを無視して突っ込んだ。ロザリオはまだ上がって来れないだろう。遺体の回収そのものに時間がかかる上、あちら側に襲撃がこないとも限らなかった。
 剣を握る。白い刀身が日光を反射していた。握り慣れた重さの剣を肩の高さに構え、身体ごと突っ込む。
 風の刃が迫る。接近を試みた天使型の腕が上がる。蟲型がこちらへ迫っている。
 どれを受けるのが最も損害が少なく敵方の損害を大きく出来るのか――その一点のみで判断を下し、更に加速するべく地面を蹴りつける。
「っぐ……!」
 焼けるような痛みが左肩に走った。それを無視するようにうめきながら身体を捻る。
 蜂を模した聖者は人の急所を狙う。より正確に言えば、頭。もっと言えば頭の脆い部分――人体で唯一露出した臓器である目を狙う傾向がある。 剣を身体に合わせて振るう。小さな影を切りつけた。二つ分の衝撃を確認して、そのまま倒れ込むように聖者の股下をくぐり抜ける。
 そうして風の刃も天使型の二撃目も躱して、ロザリオから預かった銃ではないほうの銃を抜いて、引き金を引く。
 パァン、とはじけるような音が響く。風の刃が迫るのを見て更に転がるように回避行動を取る。剣を握り、近い方の天使型の光輪めがけて振り抜いた。ぱきん、とガラスが割れるような音を聞き、崩れ落ちる腕を掴んでもう一体へ放り投げた。
 今撃ったのは空包だ。音を出すことこそを目的とした火薬で、通常の弾よりも大きな音が出る。
 知介という陽炎は、さほど強くは無い。なんだかんだ長く稼働しているのは運が良かったからだ、と思っている。卑下しているというわけでは無く、事実でもあった。だから、こういった任務の時はそれなりに準備をしてから臨む。そうで無ければ死んでしまうからだ。
 例えば。
 今日の陽炎の巡回ルートや人員を調べておく、とか。
 剣を構える。夕日色の房が宙に躍った。聖者の腕をはじき、そのまま一歩踏み込んで剣を振り下ろす。ギィン、と不愉快な音が響いた。それと伴に、駆け抜けてくるかすかな足音を聞く。
「ラウピティア! ここを片付けたら崖下に――」
「げっ、普通にやられてんじゃん。はいはーいっと」
「おいラウピティアてめぇ先行するなってあれほど!」
 うるさーい、と軽快な声が崖下に消えていく。ついでに吹き飛んだ聖者が無残に消えていっていた。ひき逃げか何かか? 知介は剣を光輪に向かって振り下ろしながら別方面の怒りで力がこもるのを感じていた。ついでに迫ってくる目玉型を剣の側面ではたき落とす。崖下に向けて落下していったが、恐らく途中で消えるか何かするだろう。
「接敵確認。天使型二体、蟲型三体。制圧を開始します」
 一つ遅れて、無機質な声が落ちた。
 空色が駆ける。緑色の背景にはおよそ似つかわしくないほどの白色が弾丸が如く駆け抜け、迫る天使型を思い切り吹き飛ばした。小学生くらいの子供ほどの大きさの鉄塊の突進である。それなりどころの威力では無いだろう。
「ツバサ、援護頼めるか」
「了解しました! 遠距離モードに移行します」
 がしゃん、と金属のこすれる音と供にツバサの指先が消えた。生き生きとした了承の返事とは正反対の戦闘モード移行宣言に、こういうところが何とも『惨い』、と知介は息を吐く。
 今考えても仕方のないことだった。いつもそう。いつだってそんなことを考えては、重たい心を引き摺っている。
 崖下はラウピティアが意気揚々と飛び降りていったので問題ないだろう。冷静に考えれば遠距離型のロザリオの元に向かうのは近距離型のラウピティアの方が良いだろうし、知介の援護は近距離・中距離の援護を行えるツバサの方が適任だ。
 それはそれとしてこっちの指示を聞く気がさっぱりないのは癪に障るのは仕方があるまい。
 利き足で地面を蹴り出す。迫る蟲型はツバサに任せ、自分は攻撃態勢に入った天使型を打ち崩すことだけに集中する。
 魔法のような攻撃をするくせに、何故かいつも予備動作がある。何の名残かは知らないが、都合は良かった。
 倒せなくていいのだ、と剣を振るう。金属同士がたたきつけられたような甲高い音が響いて、天使型の体勢が崩れた。もう一方の天使型は見えない何かにはじかれたように腕を上げている。
 銃口が静かに天使型へ向けられていた。金の目が冷静に的を見据えている。構えられた銃口にブレは無い。ロザリオの援護射撃だった。無事に崖上に上がれたらしい。
 音の無い銃弾が数発、天使型へ吸い込まれるように命中する。鈍い金属音にも似た音を立てて、聖者がぐらりと体勢を崩している。
 剣を握る。白い刀身には何もついていない。せいぜいが土汚れぐらいな物だ。小柄な影が視界に落ちる。銃声と共に、大量の弾丸が聖者へ降り注いだ。がしゃん、と区切りをつけるような音を確認して、そのまま駆ける。
 肩が痛い。焼けるような痛みが継続している。音の無い銃弾を見ている。天使型の身体には無数の傷がついている。剣を振り下ろした。手に、腕に、肩に、武器を振るった感触が伝わっている。
 ――死が救いだと思うなよ。
(なら、死にたいと願った者は何に縋ったんだ)
 死にたくないという希求も、帰りたいという本能も知っている。よく、知っている。それは確かに己が抱いたもので、同時に忌避したものだった。
 無数の銃撃を受けて脆くなった胴体に確かなダメージが入って、天使型の輪郭が崩れていく。剣を振り直す暇も無く、弾丸が光輪を貫いた。
 サイレンサーをつけた銃は、酷く静かだ。
「終わったー? こっちも大方片付いたけ、どっ!」
 そしてこの女である。先ほどの戦闘の緊張感を一瞬で霧散させてくる。悪いことでは全くないのだが、どうにもそう言うところが気に食わなかった。単に知介が気に食わないだけである。
 元気に蹴り飛ばされて木の幹にめり込んだ目玉型をつつきながらロザリオがうんざりとした表情を浮かべる。目玉型は何を残すまでも無く霧散していった。
「全然終わってねえじゃん」
「この辺、目玉型がうようよいます! どうしますか、先輩?」
「撤退に決まってるだろ、こっちの任務は達成してるんだから」
「だってさ。あたしらはどーする?」
「ツバサはまだパトロールできますよ!」
「あはっ、ツバサちゃん元気でいいね。どこぞの根暗とは大違い」
「誰が根暗だって?」
「誰もチビのこととは言ってませんけど」
「俺は! 平均だっつの!」
「すげーしょーもねー会話……俺先に帰っていい?」
 ぎゃあぎゃあと途端に日常じみた会話をしながら、とっとと背中を向けたロザリオを追う。振り返れば、ラウピティアとツバサが手を振っていた。そういう所は妙に律儀なのだと思って、何をするわけでも無く視線を戻す。
 大きな棺を背負っている。重心の位置が行きとずれているから、きちんと回収するべきものは回収できたのだろう。安堵と同時に、そこに格納されている意味を思って後悔と自責が胸を満たす。
「ああ、そうだこれ、返すよ。結局使わなかったが」
「どーも。使わなかったんなら何よりだ」
 一丁の拳銃を手渡す。手袋越しに触れる金属が冷たいものに思えた。気のせいだろう。懐に入れていたのだから、冷たいわけが無かった。
 金色の目が黒光りする金属を眺めている。くるりと銃を回して、握る。指はトリガーにかかっていない。セーフティはかかったままだ。
「銃は苦手なんだっけか」
 不意に、そんなことを聞かれて目を瞬かせた。
「扱えなくは無い、ってくらい」
 言葉を選ぶ。
 銃は苦手だった。昔から、人工生命体として目が覚めたあの時から、ずっと苦手だと、そう思っている。
 扱いが簡単な火力武器。子供でも大人を凌駕できる暴力装置。それを手にしてもなお、何一つだって守れやしなかった。鮮明すぎる記憶に残るのは、幸福だった日々と手からこぼれ落ちた何かだけで――
 ――ああ、だって銃は、それは、何かを奪うことは出来ても、何一つだって守れやしなくて。
 そういう無力感を思い出させるから、苦手なのだ。
「俺は割とまあ、嫌いでは無い……かな。扱いやすいってのもあるし」
「扱いやすいか?」
「構えて、引き金を引くだけ。簡単だろ」
 サイレンサーを取り付けた銃をしまいながら、ロザリオは淡々と語る。嘘だな、と知介は白い目を向けたが、簡単なものは簡単なのだとロザリオはうそぶいた。
「それに、狙うところを狙えば一瞬だ」
 聞こえるか聞こえないかぐらいの声量で付け加えられたその言葉に目を逸らした。聖者の気配はない。青々とした木々が茂っているだけだ。直に、聖樹にたどり着くことだろう。
 だから苦手なのだ、とはついぞ口にはしない。多分、わかり合うことは無いのだろう。そも、稼働理念が違いすぎるのだ。
「そういや、今回は武器なくさなかったんだな」
「次なくしたらGPS仕込まれちまうんで……」
「ガキの扱い受けてんじゃん……」
 呆れ八割の声がひたすらに突き刺さっていたかった。本当に自業自得である。

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