あらすじ
ミシェルはあきれた顔で副団長である女性を見ていた。副団長はというと、平然とした顔で溜まりに溜まった書類を処理している。慣れているためか、新人の数十倍の速度でさばいている。魔術を併用しているらしく、ペンも紙も宙に浮いていた。王国一の魔術師の名に恥じない腕前であり、とんでもない魔術の無駄遣いでもあった。
まあ今のところは戦争もないし、そんなもんよね、とミシェルは思っている。そんなことよりも今自分の手元にあるトンチキな企画書類の方が大切だ。
書類には「団長脱走時の対応について」と記載されている。大変恥ずかしい話ではあるが、平民出身の我らが団長・ザカライアは脱走癖がある。具体的には月に一回から二回ほど。いずれも一日で戻ってくるし、大事になることはない。現状は王城も黙認はしている。
団長は平民出身で、平民の青年らしく、大雑把で明朗快活な性格だ。ストイックではあるが、ほどほどなので厳格というほどではない。人並みの善性と、天性の肉体を持ち合わせただけの王国最強の男である。国の脅威となることを防ぐため、若いときに半ば拉致されるように騎士団につれてこられたらしいとはマイカの話だ。
団長の脱走は問題ではあるが、取り立てるほどではない――それがマイカが議会に決まって話す団長脱走についての見解で、それは騎士団としても認識に相違はない。団長は脱走はすれど本気で逃げるつもりはないのだ。本気で彼が逃げようとすれば、きっと誰も追い付けない。元々平民であれば手に入れられたはずの普通の暮らしを奪われたのだから、たまの脱走くらいは許すべきだというのがマイカの言である。
だがそれだけでは議会は納得しなかったらしい。それもそうだ。あくまで団長が逃げるつもりはないというのは騎士団が団長に向ける信頼から来るもので、議会にはそれがない。だから、信頼に代わる鎖が必要なのだ。
だからといってこれはないのでは? ミシェルは訝しんだ。
「念のため聞くんですけどぉ、マジでやるんです? これ。気でも触れました?」
「上官に向かって度胸があるな貴様は。残念ながら正気だ。あのアホ……団長の脱走を正当化しつつ王城を黙らせるならこれぐらいしか手段がない」
「あ、団長の脱走容認してたんですね」
「……流石にな。あれも一種の被害者だ。本気で逃げようとしていない以上は止めるべきではない。踏み込んで言えば、お遊びで済んでいるうちに『お遊び』として認めさせるべきだ。あいつの精神が健康であるうちにな」
ため息。それからマイカは眉間のシワをほぐすように揉んで、息を吐く。面倒なことだ、と付け加えながら、ミシェルの持つ書類を指差した。
書類には、団長が脱走したときを起点とし、王都を巻き込んだイベントにしてしまえ、という中々な内容が記載されていた。名目上は有事に備えた民の訓練と記載されている。これ本当にもっともらしい理由か? ミシェルは本当に引いていた。ざっくりと説明してしまえば、『団長が脱走したら王都の民全員で捕まえましょう!』という、小等部の運動会の演目を疑うような内容である。
「ついでに言えば、それは議会承認済みだ。お前には私がいない間の監督を任せる」
「げぇ~! 最悪なんですけどぉ!? あたしが副団長の代理とかぜぇ~たい無理ですって! あのフィジカルお化けに追い付けるの、副団長しかいないじゃないですかぁ!」
「ザカライアもそこまで理不尽ではない。ある程度時間が経てば捕まる速度で逃げ始める。そのタイミングで確保して連れ帰れば問題ない」
「……自分で帰ってくるのを待つのは駄目なんです?」
「団長の強制連行が民の娯楽になっているようでな……」
気持ちはわからなくもないのが本当に嫌だ。でも正直面白いのはそう。えらい人がえらい人に首根っこ掴まれて引きずられていくのはまあ、面白いだろう。特に階級が下の民草にとっては。親しみやすさもアピールできるから、騎士団としても正直悪い話ではない。
もうちょっと他にやりようがあるのではないかと思わなくもないが。
「ともあれ、確定事項だ。頼んだぞミシェル」
「はぁーい。それならやりますよ。ところで副団長、団長はこれ何て言ってたんです?」
「大爆笑の後、羞恥で脱走していったな」
「ガキかよ」
イベント概要
- イベント期間はありません(常設イベント)
- 舞台:王国 王都
- 脱走した団長・ザカライアを捕まえましょう、という内容ですが、王都が騒がしくなっている以外は特に変わりありません。
- ノートのみの投稿でもOKですし、イラストや小説などで参加いただいてもOKです。
- このイベントにおいて、団長・副団長(・ミシェル)との交流が可能です。
- ミシェルのCSは別途用意します。
登場人物
ザカライア
我らが団長。この度イベント発生の起点にされて恥ずかしさのあまり転げ回った後脱走した。本末転倒過ぎる。
マイカ
我らが副団長。この度ザカライアの脱走を公的に認めさせるためにトンチキ過ぎる企画書を議会で通した凄腕の女。その才能をそんなことで活かすんじゃないと騎士団員から総ツッコミを受けた。
ミシェル
兎の獣人の女性。マイカの部下の魔術師。垂れたウサギの耳が特徴的。この度マイカ不在時の代理に任命されて死ぬほど嫌がっている。本人は謙遜しているが魔術の腕は確かであり、マイカが認めるほど。
「俺が悪いのは全面的に認めるが、認めるが、やり方ってものがあんだろ……」
「ふん、脱走そのものができなくなるよりはマシだろう」
「いや、まあ、それはまあ……そうかもだけど……」
「うわ! しどろもどろな団長だ! キッショ!」
「きしょい!? 待てミシェル逃げるな! マイカは笑うな!!」
「威厳も何もないな、ザカライア!」

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます