護衛兵くんの思索のようなもの。モブしか喋らないしモブしかいません。
むそおりドハマリしてしまいました。夏侯惇殿が好きです。
暁天の瞳と、鸞を思わせる鮮やかな色の帯。わあわあと響く咆吼を割り、駆け抜けた痕跡を残すかのようにはためくそれを見て、目が焼けるようだ、と思った。無数の兵士が蹴り上げて舞い上がった土埃の中でさえ鮮やかな帯は戦場の中でさえ美しかった。
仲間内で、そういう話になるのも珍しくはなかった。この不安定に不安定を重ねたかのような時代で、わざわざ放浪の武芸者について行こうという物好きの集団だ。皆、それなりに彼のことを慕っていたし、その在りように惹かれていたのだと思う。
軍の名前は無い。軍と呼べるほど人数もない。最初の数は十ほど。徐々に増えていき、今では二十に迫るようになった。増えたな、と思う。喜ばしいことだ。味方は、多ければ多いほど良い。
護衛兵、と呼ばれていた。らしい名だ、と思っている。
「隊長、出世とか頭になさそうだもんな」
「ああ、本当に。そう言うところが良いんだが」
「けどよ、なんつうか、歯がゆいよな。あれだけ武功を立ててるって言うのに」
「馬鹿、それでいいって言うから隊長なんだろうが」
小規模な反乱鎮圧の後だった。未だ屋外で、空は曇っているためどことなく暗い。音を立てて燃える松明だけがあたりをうっすらと照らしている。仲間達はもらい物の酒を煽りながら、隊長は、隊長が、と口々に褒めたり嘆いたりしている。思うところは皆同じなのだ。
太平の要。歴史に名を残さぬことこそを埃とした者たち。時代の影に生き、光の道を歩くことを固辞した謎多き集団。
普通であれば知ることのなかった者たちだな、と酒に口をつけた。生ぬるい液体が喉を通り、少し遅れて熱を運ぶ。思わず顔をしかめた。酒は苦手だった。
肝心の隊長は、どこかへふらふらと出かけていた。自分たちも、恐らくここで少し祝杯を挙げたら解散だ。次の戦があるまで、隊長の招集があるまでそのあたりで時間を潰すことになる。隊長当人の腕がいいおかげで、宿に困ることもなかった。ありがたい話だったが、乱世なのだろう、とも思う。自分たち個人で見ればいい話だが、世を見れば全くいい話ではない。
好き好んで戦に出る者など誰もおらんわ――不貞腐れたような、諦めたような、嘆くような、そういう言葉がこびりついて離れなかった。
「おい、あんたももっと呑めよ。あとちょっとしかねえんだ」
「いい、いい。酒は苦手なんだ」
「なんだ、甘党か、あんた。ならあっちに桃がある。もらい物だと」
「そうか」
松明から少し離れたところに、包みが置いてあった。確かに桃がいくらか入っている。それでも、食べる気にはならなかった。
「先に帰る。疲れが祟って、食欲もない」
気をつけろよ、と背中から大きな声がかぶせられた。善人かどうかは知らないが、少なくとも悪人ではなかった。
董卓討伐から始まり、気がつけば各勢力に手を貸しているような形になった。
劉備玄徳の義の為の人助けに手を貸した。
曹操孟徳の理の為の戦に手を貸した。
孫家の家を守るための戦に手を貸した。
されど、この三者はおそらくは交わるまい。賢くはなくとも、それぐらいの予想はついた。予感めいた何かであったのかもしれない。
太平の要。太平の世。飢えることの無き世。
(そんなものが、本当にあるのだろうか)
平和な世とはなんだろうか。戦乱無き世など本当に存在するのだろうか。鸞のごとき隊長について行けばあるいは、と思い志願したが、あの方には何が見えているのだろうか。
分からなかった。恐ろしくて、武器を取ることしか出来ないから、だからあの人について行った。
後悔はなかったが、恐ろしさは残る。
まあ、もっとも。
生きて最後まで見られたら、の話ではあるのだろうが。


コメント